スティッフパーソン症候群とは、、、

Stiff-person syndrome : SPS

非常に稀な進行性の神経疾患で自己免疫疾患(原因不明だが自分の体を撃する抗体が自分の体の中で作られ障害を引き起こす)の一種です。

本来体を動かす際、動かす筋肉(作動筋)と反対の働きをする筋肉(拮抗筋)がお互いに邪魔をしないように働くのですが、反対の筋肉を緩めることができず同時に力が入ったままとなり筋肉の強直や痙攣(痛みを伴って持続的に筋肉の収縮が起こる)、ミオクローヌス(筋肉のすばやいピクツキ)を引き起こします。

これらは筋肉を緩める作用を持つ脳や脊髄の神経系統が上手く働かないために生じます。

特徴的症状である発作性有痛性筋痙攣は随意運動・痛覚刺激・聴覚刺激・触覚刺激・騒音・衝撃・情動の変化・咳嗽などで誘発し激痛となります。
嚥下・構音障害、胸部強直による呼吸困難、腰部や下肢の症状による歩行困難、意識障害、自律神経症状を呈することもあります。

主な病型

古典型
数年単位で慢性的に進行。主に体幹(胸、腹部、腰、背中)を主部位として、しだいに全身へと症状が波及する古典的SPS

限局型
下肢に比較的限局、stiff-limb症候群(SLS)ともいう

Progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus
強直とミオクローヌスを伴う脳幹症状随伴型(PERM)

原因

自己免疫異常による中枢神経における抑制性神経伝達の低下(主にGABAの不足)によると考えられ、数種類の自己抗体が原因物質とされている。
GABAの生成に関わる抗GAD抗体や抗アンフィフィシン抗体が、特に重要視されている。また、近年ではグリシン受容体(Glycine receptor:GlyR)α1サブユニットに対する抗体の存在も指摘されている。
しかし抗体が検出されない(陰性)の症例もある。

臨床基準

四肢および体幹における進行性の筋硬直
(支持所見)腹部および胸腰部の傍脊柱筋は好発部位であり、体の回転と屈曲が困難となる。ただし、下肢のみに症状が限局することもある。

筋硬直に重なって現れる不規則な痙攣
(支持所見)予想外の音、触覚刺激、感情的な動揺により誘発される。発作性の痙攣は耐え難い痛みを伴うことがある。

作動筋と拮抗筋の連続共同収縮
随意運動が困難となるが、原則として他覚的に運動・感覚系は正常*。

*脳幹症状(眼球運動障害、難聴、構音・嚥下障害)やミオクローヌスを伴うことがある

検査所見

(1) 自己抗体の存在**

(2) 電気生理学的検査による作動筋と拮抗筋の連続共同収縮の確認

(3) ジアゼパム投与後もしくは睡眠による筋硬直の改善

**GAD65、amphiphysin、gepherin、GABAAR、GlyRの抗原に対する自己抗体

以下は参考所見

  • 抗GAD抗体陽性SPSでは、1型糖尿病患者で検出されるような低力価の抗GAD抗体とは対照的に高力価の抗GAD抗体が検出される
  • 抗GAD抗体陽性SPSでは、髄腔内での抗GAD抗体産生を確認することが重要視されている

鑑別診断

筋硬直と筋痙攣を症状とする他の疾患(アイザックス症候群、ジストニア、McArdle病など)の除外

診断基準

Definite(確定診断)
症状があり、検査所見のすべてを満たし、鑑別すべき疾患が除外できる。

Probable(ほぼ確実)
症状があり、検査所見の2項目を満たし、鑑別すべき疾患が除外できる。

Possible(考えられる)
症状があり、検査所見の1項目を満たし、鑑別すべき疾患が除外できる。

治療

症状を緩和する「対症療法」

  • GABA作用増強薬
  • 抗てんかん薬
  • 抗痙縮薬
  • など

免疫状態を改善する「免疫療法」

  • 免疫グロブリン大量静注療法 (IVIg)
  • 副腎皮質ステロイドホルモン
  • アフェレーシス療法(血漿交換・吸着)
  • 免疫抑制剤