SPSの指定難病検討について

最終更新:2026年10月

2026年7月7日、「厚生科学審議会疾病対策部会 指定難病検討委員会」において、
スティッフパーソン症候群(SPS)が、新たな指定難病の候補疾病として改めて審議されました。

結果として、今回も指定難病への追加には至りませんでした。

しかし、公開された資料や議事録を詳しく読むと、
単純に「SPSは指定難病の条件を満たさなかった」とだけ捉えるのでは不十分です。

これまでSPSについて問題とされてきた点の一部は、
診断基準の整備などによって前進しています。

一方で現在は、
「免疫療法によって症状が改善するSPSを、指定難病制度の中でどのように評価するのか」
という別の問題が大きな壁となっています。

今回のポイント

今回の見送りは、
「SPSは難病ではない」「症状が軽い」と判断されたという意味ではありません。

2026年の審議では、主に次の3点が問題となりました。

  • 「治療方法が確立していない」という要件
  • 「長期の療養を必要とする」という要件
  • 傍腫瘍性SPSを含む疾病範囲と「発病の機構が明らかでない」という要件

特に本ページでは、
「治療が効くこと」と「治療方法が確立していること」は同じなのか
という点に注目して、今回の審議を読み解きます。

指定難病になるための要件

指定難病として認められるためには、
疾病が希少であることだけでなく、複数の制度上の要件について検討されます。

要件 内容
発病の機構が明らかでない 原因や発症機序が十分に解明されていない
治療方法が確立していない 根治療法がない、または長期・継続的な治療を必要とするなど
長期の療養を必要とする 症状や障害が長期間にわたって続く
患者数が一定数未満 原則として国内人口のおおむね0.1%程度未満
客観的な診断基準等がある 医学的・客観的な診断基準や重症度分類が整備されている

SPSそのものの医学的な重症度とは別に、
この制度上の要件にSPSがどのように当てはまるかが審議されています。

2026年の審議で示されたSPSの情報

2026年の委員会では、SPSについて国内患者数は
257人と説明されています。

SPSは、体幹を中心に間欠的な筋硬直や筋けいれんが生じ、
症状が全身へ広がることがある疾患とされています。

治療には、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)、
血液浄化療法、免疫抑制薬などが挙げられています。

2026年の審議資料で示された主な数字

257人
国内患者数
4 → 2
治療前後のmRS中央値
約82%
mRS3以上に該当

さらに、診断基準と重症度分類については、
日本神経学会の承認を得ていることも示されています。

SPSの審議は「診断できるか」という段階から進んでいる

SPSは今回初めて指定難病として検討されたわけではありません。

以前の審議では、
客観的な診断基準が十分に定まっているか
という点が大きな問題となっていました。

その後、診断基準や重症度分類の整備が進み、
現在では学会の承認を得た基準が提示されています。

つまり、SPSの指定難病審議は、

「SPSという疾患を客観的に診断できるのか」

という段階から、

「治療によって改善するSPSを、指定難病制度上どのように評価するのか」

という段階へ移ってきています。

ここまで議論が進んだ背景には、全国の患者情報の収集や、
診断基準・重症度分類の整備など、
研究班や専門家の先生方による長年の研究の積み重ねがあります。

当会としても、患者数の少ないSPSについて継続的に研究を進め、
診断や治療に関する知見を積み重ねていただいていることに感謝しています。

2024年の審議で大きな壁となった「治療効果」

2024年1月の委員会でも、SPSは指定難病候補として審議されています。

このとき、研究班への確認結果として、
免疫療法によってmRS2以下まで改善した患者が相当数存在することが示されました。

そのため委員会では、
免疫療法による治療効果が認められていることから、
「治療方法が確立していない」という指定難病の要件を満たさないと判断されました。

2026年の審議でも、
前回からこの点について大きな変更なく再び申請されている、
という趣旨の説明がされています。

つまり2026年になっても、

「治療によって改善する患者がいる」

という事実が、引き続き指定難病への大きな壁となっています。

一方、今回示された
「治療前mRS中央値4から治療後2への改善」
というデータは、SPSに対する治療効果を具体的に示した重要な成果です。

患者にとって、治療による改善が明らかになってきたこと自体は大きな前進であり、
このような情報を明らかにしてきた研究班による調査・解析の積み重ねに感謝したいと思います。

そのうえで、指定難病制度という別の観点から見ると、
「治療効果があることを、制度上どのように評価するのか」
という新しい論点が生じています。

今回の核心:「治療が効く」と「治療方法が確立している」は同じなのか

今回の審議を読み解くうえで、
当会が特に重要だと考えているのがこの点です。

一見すると、

「治療が効くのであれば、治療方法は確立している」

という考え方は自然に見えます。

しかし、慢性的な疾患を考える場合、

治療によって一時的、あるいは一定期間症状が改善すること

と、

治療を終了しても、その改善した状態を維持できること

は同じではありません。

SPSでは、IVIgなどの免疫療法によって症状が改善する患者がいることは分かっています。

一方で重要なのは、その改善した状態が、

治療を終了したあとも維持されているのか。

それとも、

定期的に治療を繰り返すことで維持されているのか。

という点です。

例えば「mRS4から2へ改善した」という数字をどう見るか

今回の資料では、

治療前 mRS中央値4 → 治療後 mRS中央値2

という改善が示されています。

これは治療効果を示す重要なデータです。

しかし、この数字だけでは分からないことがあります。

例えば、次のような経過です。

治療前 mRS4
↓
IVIgを実施
↓
mRS2まで改善

その患者が、その後治療を終了してもmRS2を長期間維持できているのであれば、
治療によって長期的な改善が得られたと考えることができます。

一方で、

治療前 mRS4
↓
IVIgを実施
↓
mRS2まで改善
↓
一定期間が経過すると症状が再び悪化
↓
再度IVIg
↓
再び改善

という経過を何年も繰り返しているのであれば、
意味はかなり違ってきます。

この場合、

治療は有効である一方、
改善した状態を維持するためには長期間の治療が必要

ということになります。

指定難病の考え方でも「継続治療」は重要です

指定難病における「治療方法が確立していない」という要件は、
単純に、

有効な薬や治療法が存在するか、存在しないか

だけで判断されるものではありません。

厚生労働省が示している考え方では、
一部の患者で寛解状態を得られる場合でも、
生涯にわたって継続的な治療を必要とする場合
は、「治療方法が確立していない」疾病に含まれ得るとされています。

一方で、継続的な治療を行うことによって
一般と同等の社会生活が可能となる場合などは、
この要件に該当しないことがあります。

したがって、SPSについて本当に重要になるのは、
「IVIgが効くかどうか」だけではありません。

治療をどのくらいの期間続けなければならないのか。
治療を終了できる患者はどの程度いるのか。
治療を延期・中断した場合に再燃するのか。
改善したあともどの程度の障害が残るのか。
そして、治療を続けながら一般と同等の社会生活ができているのか。

こうした長期的な経過も重要になります。

「治療効果あり」という一言では、長期経過が見えません

「IVIgが有効だった」という情報だけを見ると、
治療可能な疾患という印象になります。

しかし、患者の実際の経過にはさまざまな状態が考えられます。

治療後、そのまま安定

治療によって大きく改善し、その後の治療をほとんど必要としない。

継続治療によって安定

定期的な治療を行うことで、症状を一定程度抑えている。

治療間隔が延びると悪化

治療そのものは有効でも、治療時期が遅れると再び症状が強くなる。

改善しても障害が残る

mRSは改善しても、歩行障害や転倒、刺激による症状などが残っている。

十分な効果が得られない

複数の治療を行っても重い症状が残る。

これらをすべて、
「治療が効く患者」
という一つのカテゴリーにまとめてしまうと、
指定難病の要件を考えるために必要な情報が見えにくくなります。

mRS2になった患者は「一般と同等の社会生活」を送れているのか

ここも非常に重要です。

mRSは、神経疾患における障害度を評価するために広く使われています。

一方で、SPS特有の生活上の問題をすべて捉えるために作られた尺度ではありません。

例えばmRS2と評価されていても、

  • 大きな音や突然の刺激を避けながら生活している
  • 人との接触に注意を必要とする
  • 突然の筋けいれんを恐れて一人で外出しにくい
  • 転倒への不安がある
  • 公共交通機関の利用が難しい
  • 長距離の移動が困難
  • 定期的な治療のために仕事や生活の予定を調整している

といった状況がある可能性があります。

その場合、

「医学的な尺度としてmRS2であること」と、
「一般の人と同等の社会生活ができていること」は、
必ずしも同じではありません。

指定難病制度では「一般と同等の社会生活が可能か」という点も重要になるため、
今後はmRSだけでなく、
実際の生活状況を合わせて評価することも重要になると考えられます。

「治療前」と「治療後」の2点だけではなく、その後を見る

現在示されている情報は、

治療前 → 治療後

という二つの時点を比較する形が中心です。

しかしSPSのような慢性的な疾患では、

治療前
↓
治療直後
↓
数か月後
↓
1年後
↓
数年後

という時間軸で見ることも重要です。

さらに、
その間にどの程度の治療を続けているのか
という情報も必要です。

例えば同じ「mRS2」でも、

治療終了後、2年間治療なしで維持されているmRS2

と、

数週間ごとのIVIgを続けながら維持しているmRS2

では、その意味は大きく異なります。

この部分は、次回の指定難病検討に向けて重要な情報になると考えられます。

もう一つの疑問―「mRS3以上 約82%」はいつの状態なのか

2026年の資料には、

治療前mRS中央値4 → 治療後2

という数字と同時に、

mRS3以上の患者が約82%

という数字も示されています。

当会が確認したい点

「約82%」というのは、
治療開始前の患者なのでしょうか。
治療後なのでしょうか。
それとも調査時点の状態なのでしょうか。

また、「治療前4 → 治療後2」を算出した患者集団と、
「mRS3以上 約82%」を算出した患者集団が同じなのかについても、
公開された議事録だけでは十分に確認できません。

もし、十分な治療を行ったあとにも多数の患者がmRS3以上なのであれば、
長期療養や治療後の障害を考えるうえで非常に重要な情報になります。

一方、82%が治療前の状態を示した数字であれば、
治療後の患者状態を別に確認する必要があります。

そのため当会では、

「82%という数字は、いつ、誰を評価した数字なのか」

を今後確認する必要があると考えています。

2026年に新たに明確になった「長期療養」の問題

2026年の最終的な取りまとめでは、SPSについて、

「治療方法が確立していない」

だけでなく、

「長期の療養を必要とする」

という要件も満たさないと整理されています。

ここは今回、当会が特に注目しているところです。

公開されたSPSの個別討論を見ると、
「治療効果」や「傍腫瘍性SPS」については具体的な発言があります。

一方で、

なぜSPSが「長期の療養を必要としない」と判断されたのか

という点について、
SPS個別の詳細な説明は確認できません。

最終的な取りまとめではSPSについても
「長期療養」の要件を満たさないと整理されています。

資料上ではmRS3以上が約82%とされています。

そのため、
SPSの長期療養について、具体的にどのような資料をもとに判断されたのか
は、研究班などにも確認したい重要な点です。

傍腫瘍性SPSの扱いも新たな論点に

2026年の審議では、傍腫瘍性SPSの扱いについても問題が指摘されました。

SPSの一部には、悪性腫瘍などに関連して発症する傍腫瘍性のものがあります。

指定難病には、
「発病の機構が明らかでない」
という要件があります。

そのため、原因となる腫瘍が存在するケースまでSPSという疾病範囲に含めることについて、
委員会で疑問が示されました。

最終的には、傍腫瘍性SPSを含めていることも、
今回の不該当理由の一つとして整理されています。

これは、
「SPSそのものの発病機構がすべて明らかになった」
という意味ではありません。

今回問題となっているのは、
自己免疫性・特発性のSPSと、
明確な腫瘍に関連するSPSを
同じ疾病範囲に含めることです。

この点は今後、疾病概念を整理し、
傍腫瘍性SPSをどのように扱うかを明確にすることで、
今回指摘された問題を整理できる可能性があります。

2024年と2026年を比較すると

論点 2024年 2026年
診断基準 学会承認済み 学会承認済み
主な壁 免疫療法による治療効果 治療効果の問題が継続
治療後の状態 免疫療法による改善が確認される 治療前mRS中央値4 → 治療後2
重症度 mRSによる評価 mRS3以上 約82%
診断カテゴリー 見直しを求める指摘あり 主な不承認理由として前面には出ず
傍腫瘍性SPS 大きな問題としては扱われず 明確な論点となる
長期療養 主要な不承認理由として前面には出ず 不該当と整理
結果 追加見送り 追加見送り

この比較から見えてくるのは、

診断基準そのものの問題から、
治療後の患者の長期的な状態をどのように評価するかという問題へ、
審議の焦点が移ってきている

ということです。

次回の検討で重要になると考えられるデータ

今回の審議を踏まえると、
単に「SPSは重症な疾患である」ということだけを示しても、
指定難病の要件を検討するための十分な材料にはならない可能性があります。

今後、特に重要になると考えられるのは、
治療後の長期的な経過です。

  • 治療の継続性
    IVIgを現在も継続している患者の割合、治療間隔、治療継続年数、治療を終了できた患者の割合
  • 治療を変更した場合の経過
    投与間隔を延ばした場合、治療を延期・中断・減量した場合の症状変化や再燃
  • 治療後にも残る障害
    治療後もmRS3以上の患者、歩行障害、転倒、筋硬直・筋けいれん、刺激による症状誘発、介助の必要性
  • 社会生活への影響
    就労、休職・退職、外出、公共交通機関の利用、家事、入浴、通院・治療に必要な時間

つまり次に重要になるのは、

「治療が効くか」ではなく、
「治療後の状態を維持するために、どの程度の医療と療養が続いているのか」

という情報だと考えられます。

患者会だからこそ確認できること

医学的な診断基準や疾病分類、治療効果の評価は、
研究班や学会が中心となって行うものです。

一方で、患者会だからこそ集められる情報があります。

診療室の外で、患者が実際にどのような生活をしているのか

という情報です。

当会が2025年に実施したアンケートでは、
SPS確定診断者13名から回答があり、
mRS3以上は61.6%、mRS4が最も多いという結果でした。

回答数が13名であるため、
全国のSPS患者全体を代表する統計として扱うことはできません。

しかし今回の審議内容を踏まえると、
今後の患者調査では、

治療前 → 治療直後 → 現在

という時間軸を設け、

現在も治療を続けているのか、
治療を延期するとどうなるのか、
治療後にもどのような生活上の制限が残っているのか、
という情報を確認することが重要になってきます。

患者会の調査は、研究班による医学的研究とは役割が異なります。

だからこそ、

「治療によって改善した患者が、その後どのように生活しているのか」

という情報を補うことができる可能性があります。

当会が今後確認したいこと

  • 「mRS3以上 約82%」は、どの時点の患者を評価したものか
  • 「治療前4 → 治療後2」と82%は同じ患者集団なのか
  • IVIgなどを継続している患者はどの程度いるのか
  • 平均的な治療間隔と治療継続期間
  • 治療を延期・中断・減量した場合の再燃状況
  • 治療を終了できた患者の割合
  • 治療後もmRS3以上の患者の割合
  • mRS2以下へ改善した患者の実際の生活状況
  • 「長期療養を必要としない」と判断された具体的な根拠
  • 傍腫瘍性SPSを除外した疾病概念として整理できるか
  • 今後の再検討に必要とされる研究データ

今回の見送りをどう捉えるか

SPSは、以前の審議では診断基準そのものが問題となっていました。

その後、診断基準や重症度分類が整備され、
学会承認を得るところまで進んでいます。

2024年には「治療効果」が大きな壁となりました。

2026年にはその問題が残ったまま、

「長期療養」

と、

「傍腫瘍性SPSを含む疾病範囲」

も明確な論点となりました。

この経緯を見ると、


SPSの指定難病への可能性が完全に閉ざされたというよりも、
次に何を明らかにしなければならないのかが、
以前より具体的になってきた

と考えることもできます。

その中でも特に重要なのは、

「治療が効く」という一点だけではなく、
治療を続けながら患者がどのような生活を送り、
その状態がどれくらい長く続いているのかを示すこと

ではないかと当会では考えています。

SPSのように患者数の少ない疾患について、
全国規模の情報を集め、
診断基準や重症度分類、治療効果に関する知見を積み重ねていくことは容易ではありません。

当会として、これまで研究を継続してくださっている研究班、
専門医の先生方、調査や研究に協力された医療機関の皆さまに、
改めて感謝いたします。

今回の審議によって新たな課題が見えてきたことも、
これまでの研究によって、
SPSに関する議論がより具体的な段階まで進んだからこそだと考えています。

今後について

当会では、今回の審議内容について、
SPSの研究に携わる専門家や研究班にも確認を行いながら、
今後の動きを追っていきます。

必要に応じて患者アンケートについても、
これまでの重症度調査だけでなく、

治療の継続性

と、

治療後にも残る生活上の負担

という視点を加えた調査を検討していきます。

新たな研究結果、研究班からの情報、
指定難病検討委員会での再検討などが確認された場合には、
このページを更新します。

このページについて

本ページは、厚生労働省が公開している指定難病検討委員会の資料・議事録をもとに、
「スティッフパーソンみんなの会」が内容を整理したものです。

制度上の正式な判断については、
厚生労働省が公表している資料をご確認ください。

また、本ページ中の
「当会が注目している点」「今後確認したい点」「今後必要と考えられるデータ」については、
厚生労働省や委員会の公式見解ではなく、
公開資料をもとに当会が整理した分析を含みます。

主な参考資料

厚生労働省
第67回 厚生科学審議会疾病対策部会 指定難病検討委員会
2026年7月7日

厚生労働省
第67回 厚生科学審議会疾病対策部会 指定難病検討委員会 議事録

厚生労働省
第54回 厚生科学審議会疾病対策部会 指定難病検討委員会
2024年1月31日

厚生労働省
指定難病の要件について